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【ブリッグス・スカッド】
デシル・プロダクションは1951年にコメディ女優ルシル・ポールと当時の夫であったデシ・アルナズが設立した会社である。1951年にアメリカで放映された 「アイ・ラブ・ルーシー」(日本でも1957年に放映)の大ヒットを始め、その他のドラマも認められてデシル・プロダクションも隆盛を極めていたが、1960年代に 入ると次第に衰えていく。財政の建て直しが図られている中、ブルース・ゲラーが書いた「ブリッグス・スカッド(BRIGGS' SQUAD)」という脚本に目を止め、ゲラ ーが映画化を望んでいたにもかかわらず、30分用のテレビドラマとして書き直させた。
「ブリッグス・スカッド」とは、使命を実行する特殊部隊ということで、デヴィッド・ブリッグス中佐をリーダーとし、6人の部下がいるという設定だった。車のディー ラーで利益にならないことはしないアルバート・ネー、プレイボーイでかつて女性にノーと言わせたことのないジャック・スミス、電気工学、数学・物理学のエキス パートでギャンブル依存症のバーニー・コリア、恐らく世界でもっとも力のある男のウイリー・アーミテージ、武道のエキスパートでプロの殺し屋テリー・ターゴ、 変装と魔術とスリの名人で、15ヶ国語を流暢に喋れるマーティン・ランドである。ブリッグスは政府高官であるものの、その他のメンバーは犯罪者崩れという内 容だった。そして、ブリッグスは彼らを率いて、船に乗り込んで航海をし、いろいろな武器や小道具を使用して公海強盗を働くというものである。ブルース・ゲラ ーは、たとえ彼らが罪を犯す側にいても、視聴者は彼らの側に立って彼らを応援すると考えていたようだ。
しかし、テレビ番組として放送コードに適合させるために、ブルース・ゲラーは「ブリッグス・スカッド」の大幅な変更を余儀なくされる。まず、内容がラテン・アメ リカの独裁者によってホテルの金庫室に厳重に保管されている核弾頭を盗み出すというストーリーに変更され、次に、登場人物のアルバート・ネーとジャック・ スミスが廃されて、麻薬常習者である20代の魅惑的女性のシナモンに置き換えられた。また、犯罪者集団から半官的な立場で全員を秘密諜報員にすること で、アメリカ政府のための任務を遂行するというような設定になった。これによって、たとえ彼らが法を犯すような行動をとっても、それが常に正当化されるという ことになるのだ。
ルシル・ポールはこのテレビドラマ用として出来上がった脚本に対して、読んでも意味不明と難色を示すものの、彼女の新しい夫ゲーリー・モートンらが非常 に気に入ってドラマ化を決定し、タイトルは後に「MISSION:IMPOSSIBLE(スパイ大作戦)」と変更される。また、「ブリッグス・スカッド」という部隊も、「IMF (Impossible Mission Force)」と改称される。IMFは民間の組織という設定であったものの、その活動範囲については漠然としており、時々スパイ活動をする 探偵物語のように当初は考えていたようだ。また、パイロットに向けてシリーズ構想が練られたが、その中では、ブリッグス、シナモン、バーニーの三人がレギ ュラーで活動し、三人の技術で足らない場合は、毎回違うゲストスターを秘密諜報員として登場させるつもりだった。そして、サスペンスをさらに高めるために、 そのうちの何人かを劇中で殉職させることも考えていたらしい。
【パイロット製作】
「スパイ大作戦」のパイロットを製作するにあたって、ブルース・ゲラーはゲストスターの役割を設定する。金庫破りのテリー・ターゴ、俳優のマーティン・ランド と怪力の保持者ウイリー・アーミテージの三人の設定がなされた。キャストにはゲラーがかつてロサンゼルスでプロの俳優たちを養成するためのワークショップ であるシアター・ウェストで知り合ったマーティン・ランドーとバーバラ・ベインが選ばれた。グレッグ・モリスもシアター・ウェスト出身である。俳優のマーティン・ラ ンドという役名もマーティン・ランドーのために準備されたようなもので、後に役名はローラン・ハンドと改名される。また、スタッフについても、ゲラーは古い仲間 を引き入れるように働きかけた。
監督には、当時テレビ界でもっとも成功していたバーニー・コワルスキーに白羽の矢が立てられた。ブルース・ゲラーは、視聴者の心を突然奪うような展開を 好み、コワルスキーはこの点を配慮しながら、製作したと言われる。IMFの表舞台と裏舞台、そして、悪漢サイドのシーンが同時進行するような複雑な構成で あるため、歴代の「スパイ大作戦」の監督は、製作の遅延や一種のタイミングを備えたジブソーパズルのような構成に悩むことになる。
1965年12月8日(水)にパイロットの撮影が、マウント・セント・マリーカレッジで行われた。13日間の撮影スケジュールが遅延して19日間かかった。さら に、ブルース・ゲラーはかなりの箇所の修正を要求したため、CBSへの指定納期を逃してしまい、CBSは別のパイロットであるシカゴの刑事「ナイトウォッチ」 を採用してしまった。その後に、「スパイ大作戦」のパイロットが納品され、もはや「ナイトウォッチ」の決定は覆らないと思われていたが、奇跡が起こったのであ る。
当時としては、「スパイ大作戦」のライセンス料が破格の金額であったことや、パイロットの質と同様の質を毎週維持するのは困難だという懸念にもかかわら ず、これを見たCBSの会長や幹部たちの心を動かすような仕上がりだったことと、デシルのルシル・ポールが、「スパイ大作戦」がそのシーズンの最高のパイ ロットであると主張し、採用しなければ当時のCBSの看板番組である「アイ・ラブ・ルーシー」を中止すると脅したと伝えられている。しかし、誰の目にも、「スパ イ大作戦」のパイロットがその年のショーであったことに疑問はなかったようで、結局、CBSの選択は正しかったということが後に証明されることになるのだ。
【シリーズの特徴】
1965年当時、秘密諜報員が登場するドラマとして、「ナポレオン・ソロ」、「ワイルド・ウェスト」、「アイ・スパイ」などが存在し、ブルース・ゲラーは「スパイ大作 戦」をこれらのシリーズとは明白な差別化をしたかった。そこで、既存のスパイドラマとは明らかに趣向が異なる設定が数多くなされたのである。その中で顕著 に現れている特徴について書き記してみると以下の通りとなる。
まず、考えられたのがIMFメンバーのキャラクター描写の欠如ということだ。主人公たちの人間特性を極力抑えることにより、彼らを歯車としての機械的な人 間に見せ、彼らの行動を職人芸的に描くことに成功した。とはいえ、メンバーのキャラクターが具体的に描写されなくても、彼らの行動の中で十分滲み出てお り、視聴者は彼らの活躍する行動を見ながら、演じる俳優の魅力、彼らのチームワーク、組織への忠誠心、メンバー相互の信頼性などを感じ取ることができ る。メンバーの一人が危機に陥った時、他のメンバーが協力して危機に晒されているメンバーを救出するというシーンが毎回、違った形で表現されることにな る。
次に考えられたのが、精巧に練られ、複雑に入り組んだIMFの戦略である。敵の悪漢に対して表舞台ではローランとシナモンが直接接触する一方、バーニ ーとウイリーが敵の見えない裏舞台でほぼ同時進行という形で任務が展開される。そして、秘密兵器を数多く取り入れて論理的に組み立てられたストーリー ではあるものの、彼らが何をしようとしているのかがリアルタイムでは非常にわかりにくい。ところが、毎回最後に彼らの作戦の全貌が明らかになって、敵の悪 漢が驚くような展開で結末を迎えるというものだ。視聴者にとっても、最後に思いもつかない弱点を突かれたような同様な気分にさせられる。
さらに考えられたのが、IMFメンバー間の会話におけるユーモアの欠如である。これは、ブルース・ゲラーが明らかに「ナポレオン・ソロ」を意識してこのような 設定にしたと思われる。これはリアリズムを重視し、IMFが任務を真剣に取り組む姿勢を示すものであり、「ナポレオン・ソロ」がユーモア描写のために自己パ ロディ化して短命に終わってしまったのと比較し、シリーズに長い寿命を吹き込む役割を果たしたと言える。
また、ストーリーに現実感を持たせるため、登場する秘密兵器の小道具の実現可能性について、専門チームを組んで事前に入念に検討された。そして、原 理が有効ならば、たとえ世の中に存在しなくても、バーニーはドリームマシンを建造するという設定にしたようだ。ジョニー・バークが中心となったこのチームに は、それぞれの分野のトップ技術者が集まり、舞台裏のヒーローであったと言われている。
そして、大きな特徴になったのは暴力の追放と心理作戦の多用であろう。確かに、第1シーズン初期には銃撃戦や殺人をするIMFメンバーも描かれたが、 次第にIMFによる暴力シーンは激減していく。その代わり、相手を倒すときは空手チョップを使用したり、催眠針を刺して相手を仮死状態にするような戦法が使 われるようになる。特に、1963年のケネディ大統領暗殺後は、テレビ業界自体も反暴力論が巻き起こって、劇中で暴力シーンを演じるのがやりにくくなったと いうこともあるのだろう。
ということで、IMFは暴力以外の、詐欺、イカサマ、窃盗、誘拐などの手段を好んで用いて、メディアの裏をかいたり、敵を罠にかけて犯罪に陥れたり、あるい は、部下をそそのかして上司を殺害させるというようなことをやってのけるのだ。人間の心理をうまく利用した作戦が毎回見られ、IMFは敵の悪漢をよく研究 し、その弱点となる出世欲、金銭欲、性欲などをうまく突き、最終的に敵をものの見事に騙すのである。 |
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【放映時期】66/09/17―67/04/22 (全28話)
【レギュラー】第1シーズンのオープニングに流れるレギュラー出演者のクレジットは下記のようになっている。
Starring STEVEN HILL,
also starring BARBARA BAIN,
GREG MORRIS,
PETER LUPUS
マーティン・ランドーについては、レギュラー扱いにはなっておらず、たいていは、本編に入ってダンがファイルよりメンバーを選ぶシーンで、特別出演扱いのクレ ジットが入る。
Special Appearance by MARTIN LANDAU As Rollin Hand
【製作】ジョセフ・ガントマン(27)、ブルース・ゲラー(1)
【脚本】ウッドフィールド&バルター(10)、エリス・マーカス(4)、ローレンス・ヒース(3)、ロバート・レウィン(3)、エドワード・J・ラクソ、ジェローム・ロス、ジュデ ィス&ロバート・ガイ・バローズ、ジュリアン・バリー、チェスター・クロムホルツ、ブルース・ゲラー、マン・ルービン、リー・チャプマン
【監督】チャールズ・R・ロンドウ(5)、レオナルド・J・ホーン(5)、バーナード・L・コワルスキー(3)、リー・H・カッツィン(3)、アレン・マイナー、シャーマン・マーク ス、ジョセフ・ペヴニー、トム・グリーズ、ハーシェル・ドーハティ、ハリー・ハリス、マーク・ダニエルズ、マイケル・オハリヒー、ラルフ・セネンスキー、リチャード・ベ ネディクト、ルイス・アレン、ロバート・ダグラス
【エミー賞】 6部門でノミネートされ4部門で受賞
ドラマシリーズ作品賞:「列車偽装作戦」
ドラマシリーズ主演女優賞:バーバラ・ベイン
脚本:ブルース・ゲラー 「核弾頭を奪え」
フィルム・音響編集:ポール・クラズニー、ロバート・ワッツ
【解説】アメリカ本国で、1966年9月17日にパイロット版である「核弾頭を奪え」が放映され、翌週から第1シーズンがスタートし、1967年の4月22日の「裏 の裏」までの全28話(パイロット版を含む)が放映された。製作はパイロット版がブルース・ゲラーである以外は、すべてジョセフ・ガントマンが担当している。脚 本については、「武器弾薬を渡すな」より参入したウッドフィールド&バルターがメインライターとして10作品を手がけている。
「スパイ大作戦」のスタートした1966年秋、デシル・プロダクションにはもう一つの大作「スター・トレック(宇宙大作戦)」を抱えていた。両者とも、革新的なコ ンセプトを持ち、製作費が高価であるという共通点を持っていた。デシル・プロダクションの当時の副社長のハーバード・ソローは家族的な親密感溢れる経営を めざしていたこともあり、両者のスタッフとキャストはお互いに良く折り合い、雰囲気もなかなかよかったと伝えられている。
ブルース・ゲラーが製作者として招いたのが、「ナポレオン・ソロ」の製作に携わっていたジョセフ・ガントマンであった。しかし、パイロットの「核弾頭を奪え」を 無事製作したものの、ブルース・ゲラーにはシリーズの概念や基準書みたいなものが全くなく、ジョセフ・ガントマンはこのことに苦悩するのであった。また、ブ ルース・ゲラーは撮影後の編集や音楽に極度に口を出し、スクリプトの作成にはあまり関わらなかったため、ジョセフ・ガントマンはプロデューサー兼ストーリー エディターの役割を担うことになる。そして、困ったガントマンは、知人である脚本家数名に連絡を取り、呼び出されたのがウィリアム・リード・ウッドフィールドと アラン・バルターであった。この二人によって良質で魅力あるIMFの秘密兵器が多数登場するようなスクリプトが次から次へと量産され、二人が辞める第3シー ズン半ばまでは、スクリプトの不足の問題は起こらなかった。
スタッフにとっての一番の悩みの種は、製作の問題であった。通常、毎週放映されるドラマの製作スケジュールは6日間で組まれるらしいが、「スパイ大作 戦」は7日間で組まれ、それも常に遅れがちで8日以上かかることも珍しくなかったと言われている。ブルース・ゲラーには経費を節約する気が毛頭なく、製作 予算も常にオーバーし、これが経営者の目に留まるのは、奇しくも次シーズンになってからである。
しかしながら、毎週のように「スパイ大作戦」が放映されるにつれ、ほとんどの視聴者はこのドラマの内容を完璧に理解できなかった。「スパイ大作戦」では、 視聴者はテープシーンとアパートシーンのわずかな情報を手がかりに、IMFメンバーと一緒にアドベンチャーの世界に入っていくことを強いられる。途中で作戦 の解説がほとんどなく、目の前に展開される速いタッチの画面についていかなければならなかった。おまけに、表舞台と裏舞台に分かれて遂行されるIMFの 作戦と敵の悪漢登場の複数の場面が同時進行で展開され、入念に練られた作戦も複雑に入り組んでいてわかりにくく表現されている。当時は家庭用ビデオ デッキもなく、テレビで放映されると同時に1回ですべてを理解しなければならなかったのだ。
第1シーズンはジム・フェルプスがIMFのリーダーでないということで、すっかり印象の薄くなってしまったシーズンではあるものの、注目すべきエピソードは 数多く存在する。「大量殺戮者」では、時間のトリックが初めて採用されたエピソードで、初めて偽装旅行のトリックを用いた「列車偽装作戦」とともに、内容の 充実度においても第1シーズンの代表作として双璧をなすものである。パイロットの「核弾頭を奪え」についても、CBSの役員の心を動かし、本シリーズの購入 を決定させたという重要なエピソードである。
また、超自然現象をテーマにした「幽霊を呼べ」や、シナモンが敵のスパイに本気で恋に陥る「暗殺者レディキラー」など異色の作品も見られ、シリーズの方 向性を模索するようなものとして位置づけられる。さらに、シリーズ初の二部作となった「刑務所突破作戦」においては、いつもと趣が異なり、メンバーの人間性 やキャラクターが十分に表現されたエピソードとなっている。
作品の出来はともかくとして、第1シーズンのエピソードの中には、今後のシリーズの方向性を示唆するものも少なくない。ウッドフィールド&バルターによる 最初の作品「武器弾薬を渡すな」では、ギャンブルが絡んだIMFの作戦の基本形が見られるとともに、魅力溢れるIMFの秘密兵器が多数登場する。「越境作 戦」においては、一度敵から奪ったものを一旦敵に返し、再びIMFが敵から奪うというおなじみの戦術が登場し、「二重替え玉作戦」は同じ顔をした人物が同一 の部屋に三人登場するという変装術の極致を描いている。また、「生贄」では、敵が心理作戦を巧みに使ったエピソードで、今後のIMFの作戦にも同様のもの が頻繁に用いられるようになる。そして、ナチスを初めてテーマにした「ヒトラーの遺産を奪取せよ」は出来映えもよく、「新スパイ大作戦」でリメークされている。
第1シーズンにおけるIMFのレギュラーチームのリーダーはダン・ブリッグスであり、アメリカ合衆国政府からは明らかに独立した組織であり、彼の部下として は、変装と声帯模写の名人で手品も得意とするローラン・ハンド、妖艶な美女で元カバーガールのシナモン・カーター、電子工学のプロフェッショナルで破壊工 作も得意とするバーニー・コリア、重量挙げの元世界チャンピオンで並外れた怪力の持ち主であるウイリー・アーミテージの4名である。
マーティン・ランドーについてはレギュラー出演としての契約をしておらず、当初、数話登場するだけの予定で、パイロット版では、単なるゲスト出演となってい た。彼の演じる役割が、それほどレギュラーにするほど重要視されていなかった点もあるが、回を重ねるごとに、彼の演技力や演じるキャラクターのユニークな 才能、可能性や存在感などが、スタッフのみならず視聴者にも支持されることになり、番組にとっても欠かせないものとなってしまった。そして、レギュラーでな いにも関わらず、第1シーズンのほとんどのエピソードに登場することになった。結局、ローランが出演しなかったのは、「越境作戦」と「暗殺者 レディキラー」 の2作品で、残りの26作品に登場している。
CBSはダン・ブリッグス役で主人公となるスティーヴン・ヒルの起用に対して難色を示していた。彼のキャラクターが地味でIMFのリーダーとして商用的でな いと考えたのである。これに対してブルース・ゲラーはスティーヴン・ヒルのことを大変気に入って、ヒルのキャラクターが面白くて型破りな可能性があると主張 して、CBSの幹部たちを押し切るのであった。
ところが、スティーヴン・ヒルはユダヤ教の敬虔な信者であり、金曜の夜には、一切仕事をしないという条件の折り込まれた契約を締結することになるのだ。 製作サイドでは、金曜といえば最終日ということで真夜中まで撮影が行われることも珍しくなく、スティーヴン・ヒルのこの条件は大きな障害になった。このこと が原因で、ダン・ブリッグスは大半の作戦の実行に加わることができないことになり、指令の受領とメンバーの選定とアパートでの作戦会議のみしか登場しな いエピソードが必然と多くなったのである。
きちんと契約書で謳われていても、スティーヴン・ヒルと製作スタッフとの確執はしばしば見られ、お互いに神経質になることも珍しくなかった。そして、致命的 な事件が、「偽造フィルムを暴露せよ」の撮影中に起こったと言われている。それまで、スティーヴン・ヒルは2日分の撮影を終え、撮影所の階段を垂木まで駆 け上がるシーンを撮影する時、突然、彼はシーンを演じることを拒否し、楽屋のドアをロックして撮影がストップする事態に陥ったのである。拒否した理由につい て、ブルース・ゲラーとハーバード・ソローにも言わなかったため、ハーバード・ソローはスティーヴン・ヒルを降板させ、テープシーンは、シナモンがエステティッ クサロンで指令を受け取るという設定に書き直された。ブリッグスが登場しない理由については劇中で一切語られず、本シリーズでIMFリーダーが登場しない 唯一のエピソードになった。これによって、それまで彼をひいきにしていたブルース・ゲラーですら完全に切れたと言われている。
この事件を境にスティーヴン・ヒルの登場は必要最低限に抑えられる。彼の任務はテープシーン、メンバーの選定シーン、アパートシーンの三つが基本とさ れ、本来、彼が行うはずだった任務については、毎回、ゲストスターが交代で務めることになる。こういう状況になっても、スティーヴン・ヒル本人は自分が降板 になることを自覚していなかった。1967年3月6日に「極秘情報を奪回せよ」の撮影中、スティーヴン・ヒルの降板とピーター・グレイヴスが後任と伝える記事 で、彼にとって最も不幸な形で解雇の知らせを聞く結果となった。
第1シーズンが終了して視聴率も振るわず、ニールセンの格付も51位と低迷する。普通なら、これで番組終了となってもおかしくない数字だが、幸運にもCB Sの強力な支持があって、シリーズの続行が決定される。また、1966年の年末に「核弾頭を奪え」と「大量殺戮者」の再放送がされ、初回放映時よりもかな り高い視聴率を稼いだ。そして、運命の1967年3月25日の夜、エミー賞の4部門で勝ち取ったことで、さらに多くの視聴者を獲得するのに有効だった点は間 違いなかった。
第1シーズンの一番の大きな特徴といえば、やはり、IMFリーダーがダン・ブリッグスだったということだ。いつも同じメンバーを選ぶとは限らず、任務もほとん ど参加せず、作戦もよく失敗して途中で変更をよく強いられたリーダーだった。また、殴り合いや銃撃戦を好み、緊張を解すためにメンバー間で冗談の掛け合 いも頻繁にされるという意外と人間臭さも垣間見られる。「核弾頭を奪え」で突然登場したのと同様に、第1シーズン終了とともに突然と去るIMFリーダーにつ いて、劇中では一切語られずにダン・ブリッグスが任務中に死んだのか、あるいは、IMFを辞任したのか永久に謎である。そして、「スパイ大作戦」に第1シー ズンがかつて存在したことさえ、人々の記憶から忘れ去られようとしているのである。 |
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【放映時期】67/09/10―68/03/17 (全25話)
【レギュラー】第2シーズンのオープニングに流れるレギュラー出演者のクレジットは下記のようになっている。
Starring PETER GRAVES,
Starring MARTIN LANDAU as Rollin Hand,
Also Starring BARBARA BAIN,
GREG MORRIS,
PETER LUPUS
【製作】ジョセフ・ガントマン(25)
【脚本】ウッドフィールド&バルター(11)、バーニー・スレイター(3)、サイ・サルコウィッツ(2)、リチャード・M・サカル(2)、ローレンス・ヒース(2)、ジェームズ・ F・グリフィス、ジョン・D・F・ブラック、ジョン・オデア&アーサー・ロウ、ブラッド・ラドニッツ、マン・ルービン
【監督】リー・H・カッツィン(7)、ポール・スタンレイ(5)、レオナルド・J・ホーン(4)、アルフ・ケリン(3)、マイケル・オハリヒー(2)、ロバート・トッテン(2)、アレク サンダー・シンガー、マーク・ダニエルズ
【エミー賞】 11部門でノミネートされ2部門で受賞
ドラマシリーズ作品賞:ジョセフ・ガントマン
ドラマシリーズ主演女優賞:バーバラ・ベイン
【ゴールデン・グローブ賞】
最優秀TV男優:マーティン・ランドー
【解説】第2シーズンは、1967年の9月10日に放映された「未亡人は二度生まれる」を皮切りに翌年の3月17日の「恐怖のリモートコントロール」までの全2 5話となる。製作は第1シーズン同様、すべてジョセフ・ガントマンが担当している。脚本については、第1シーズン同様メインライターのウッドフィールド&バル ターが11作品を担当している。
突然、リーダーがダン・ブリッグスからジム・フェルプスに変更になっており、理由については、番組では一切触れられていない。スティーヴン・ヒルの降板に ついては、「偽造フィルムを暴露せよ」の撮影中に演技を拒否したトラブルや彼自身のスケジュールが多忙で、「スパイ大作戦」の撮影日程を合わせることが困 難であったこと、あるいは、彼に対する演技が表情豊かでないという批判など、さまざまな要因がからんでいたと思われるが、これから番組も軌道にのって盛 り上がっていく時に、スティーヴン・ヒルのファンからすると残念な結果であった。
第1シーズン限りでスティーヴン・ヒルの降板は決定していたが、後任のリーダーを演じる俳優はすんなりとは決まらなかったようだ。当初、デシル・プロダク ションはスチュアート・ウィットマンと出演の交渉をしたが、彼が全くショーに関心を示さないので断念した。次にジョン・フォーサイスに白羽の矢が立てられた が、フォーサイスは自身のショーに忙しくて別のシリーズに出演する余裕がないという結論が下された。そんな中、ブルース・ゲラーとジョセフ・ガントマンの目 に入ったのが、1965年にテレビ放映された「激戦」というドラマに出演していたピーター・グレイヴスであった。
ピーター・グレイヴスは「スパイ大作戦」を何度か見ており、素晴らしいドラマと好印象を持っていた。ブルース・ゲラーから出演の依頼があった時、自分にぴっ たりの役割であることを悟ったグレイヴスは迷うことなく返事をしたと言われている。そして、役名がまだ決まっていなかったので、いくつかの候補をグレイヴス が考え、その中にフィリップスという名前があった。当時、ジム・フィリップスという名前のCBSの役員がおり、その名前をそのまま使うことができないことから、 ジム・フェルプスという名前に決定したというのは有名な話である。
さらに、ピーター・グレイヴスはジム・フェルプスの人物像を考えた。大学を卒業すると朝鮮戦争に出征し、その後パンナム航空に入社という経歴を持ち、ある 日、彼がニューヨークのアパートに戻ると、レコードプレーヤーの上にメッセージを見つけたということで、ジム・フェルプスのIMFリーダーとしての任務が始まる というものであった。ブルース・ゲラーはこのアイデアに好感を持つものの、ドラマの中で、この設定は生かされなかった。ジム・フェルプスはアマチュアでなく、 かなり高度な能力と経験を持ったプロフェッショナルなエージェントとして描かれることになる。
ジム・フェルプスを演じることになったピーター・グレイヴスの加入により、スティーヴン・ヒルが演じた以上に、IMFのリーダーとして、指令の受領や計画の立 案とメンバーの選択から任務の実行までの重責を十分にこなし、彼の演技力もさることながら、リーダーとしての存在感は絶大で、後にIMFのみならず西側ス パイの超大物として、今後長い間君臨することになる。まさに、彼なしでは「スパイ大作戦」を語れないという域まで達するのである。
他のレギュラー陣については、マーティン・ランドーがやっと晴れてレギュラー扱いで、しかも主役という位置づけになったぐらいで、残りの3名については第1 シーズンと同じである。ピーター・グレイヴス以下5人の"ドリーム・チーム"の繰り広げる数々の作戦が、本シリーズでも最も印象が深く、かつ、チームワークの 完璧さは最高であったと言えよう。
第2シーズンで印象的なエピソードとしては、「脱出口」でIMFが銀行強盗に扮し、チームを二つに分けてジムらが偽警官を演じるアイデアは面白く、「ヒスイ の印璽」では猫がIMFの任務の補助を演じ、猫が印璽を口にくわえて鉄板の通路を歩く様子は、本シリーズでも最もスリリングに描かれている場面である。ま た、劇場公開された「黒の壊滅命令」は多数の秘密兵器やトリックが折り込まれて娯楽大作の要素を十分に持ち、「スパイ大作戦」におけるギャングものの真 髄を見せてくれる。
今後のエピソードの作戦や方向性を示唆するエピソードとしては、「地下よりの脱出」において人工地震の発生という作戦が用いられ、「スリラー作戦」や第7 シーズンの「恐怖!人工大地震」でも違った手法で人工地震の発生が見られる。そして、「偽造紙幣マシン」では偽札の製造をテーマにしており、第4シーズ ンの「札束廃棄作戦」でも同様なテーマが見られる。「焼土作戦」では、初めて世界終焉のトリックが用いられ、今後も数々の同様のトリックを用いられた作戦 が登場する。また、個人的な事件を扱ったものとして、「第三の町」では、IMFリーダーのジムが敵に拉致されるというもので、第7シーズンの「指令なき作戦 計画」にも同様の展開がお目見えする。
ドラマが好調であったにもかかわらず、「スパイ大作戦」と「スター・トレック」を製作するデシル・プロダクションは多額の負債を抱えて経営危機に陥っていた。 そんな折、資産家チャールズ・ブラドーンはパラマウント・ピクチャーズを買収し、隣接するデシル・プロダクションのルシル・ポールにも買収の話を持ちかけたの だ。そして、最終的にルシル・ポールはデシル・プロダクションの売却の決断を下し、1967年7月に正式にデシル・プロダクションはパラマウント・テレビにな り、「スパイ大作戦」と「スター・トレック」の製作権も譲渡される運びとなったのである。その結果、「スパイ大作戦」においては、第2シーズンまでデシル・プロ ダクションのロゴがエンディングで見られるが、第3シーズンになると、完全に消失してしまうのだ。
早速、新しい経営陣は「スパイ大作戦」の制作費が高いことに腹を立て、製作のジョセフ・ガントマンに経費削減を示唆したが、経費削減よりもシリーズを成 功させることが最優先とはねつけた。また、デシル・プロダクションの副社長だったハーバード・ソローもパラマウント・テレビの副社長として平行異動だったた め、この考えに全面的な支持をした。これに対して、この状態に面白く思わない経営陣は、ハーバード・ソローをMGMの副社長に異動させてしまう。しかし、少 なくとも第2シーズン中においては、スタッフとスタジオの製作予算に関する対立は表面化することなく、ブルース・ゲラーの浪費は続けられるのであった。
第2シーズンより「スパイ大作戦」は土曜日から日曜日の午後10時に放送時間の変更がされた。その効果もあり、ニールセンの視聴率の格付も第1シーズ ンの51位より第2シーズンは32位へと上昇を見せた。ピーター・グレイヴスの加入により、IMFのリーダーとして完璧に演じる彼の功績も大きく、「スパイ大作 戦」を最も熱いサスペンスドラマとして特集を組む雑誌も現れ、世間の注目を集め始めていた。さらに、エミー賞のノミネートが11部門でされ、その内の主演女 優部門のバーバラ・ベインと作品部門の製作者ジョセフ・ガントマンが受賞するという結果となった。奇しくも、ジョセフ・ガントマンは製作者として第1シーズン から携わっていたが、第2シーズン終了とともに「スパイ大作戦」から離れることを決断していたのだ。 |
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【放映時期】68/09/29―69/04/20 (全25話)
【レギュラー】レギュラー出演者については、第2シーズンと全く同一で、オープニングのクレジットについても、下記のようになっている。
Starring PETER GRAVES,
Starring MARTIN LANDAU as Rollin Hand,
Also Starring BARBARA BAIN,
GREG MORRIS,
PETER LUPUS
【製作】スタンレイ・カリス(16)、ウッドフィールド&バルター(7)、ロバート・E・トンプソン(2)
【脚本】ポール・プレイドン(7)、ローレンス・ヒース(6)、ウッドフィールド&バルター(3)、ロバート・E・トンプソン(2)、ジェリー・ルドウィグ、ジュディ・バーンズ、 ジョン・T・デュガン、マックス・ホッジ、ロー・ショウ、ロバート・ハムナー、J・D・ブキャナン&R・オースティン&M・アダムス
【監督】アレクサンダー・シンガー(4)、ジョン・モクセイ(4)、スチュアート・ハグマン(2)、スットン・ロレイ(2)、ポール・スタンレイ(2)、リチャード・ベネディクト (2)、ジェラルド・メイヤー、ジョン・フロレア、ドン・リチャードソン、ブルース・ケスラー、ポール・クラズニー、リー・H・カッツィン、レザ・S・バディイ、ロバート・ギス ト、ロバート・バトラー
【エミー賞】 8部門でノミネートされ2部門で受賞
ドラマシリーズ主演女優賞:バーバラ・ベイン
ドラマ芸術部門賞:「地下百メートルの円盤」
【解説】第3シーズンは、1968年9月29日に放映された「甦ったプリンセス」から翌年の4月20日の「訊問」までの全25話である。製作はウィリアム・リード・ ウッドフィールド&アラン・バルターとロバート・E・トンプソンとスタンレイ・カリスの3者が担当している。脚本に関しては、製作者に昇格してシーズン途中で去っ てしまったウッドフィールド&バルターは3作品しか提供せず、代わりにメインライターになったポール・プレイドンが7作品、ローレンス・ヒースが6作品を担当し ている。
第3シーズンに入ると、「スパイ大作戦」は一種の社会現象となって視聴者の広がりを見せ始めていた。ニールセンの視聴率の格付でも、ほとんどの週のベ スト10に入った。普段テレビを見ない層の人々までも見るようにしてしまったのである。また、海外においても各国で火がつき始め、どこにおいても人々は家で 「スパイ大作戦」を見た翌日に、職場や学校で「スパイ大作戦」の内容を語り合うという光景が見られた。そして、いたるところで「スパイ大作戦」の商標である 音楽やテープシーンなどがパロディとしてからかわれるようになった。このように「スパイ大作戦」の作品内容と視聴者の人気が頂点を極めたのであるが、皮肉 なことに、経営不振のデシル・プロダクションは、「スパイ大作戦」の製作から完全に手を引き、デシル・プロダクションのロゴも出てこない。代わってパラマウン ト・テレビが製作を担うようになった。
第3シーズンに入るとシリーズを代表するような名作が続々と登場する。「密室の金塊」では金庫内の金塊を溶かして盗み出すという大胆な作戦が展開さ れ、金塊が溶けるシーンはシリーズ屈指の印象に残るものである。また、「二重スパイをでっちあげろ」では、敵に本物の情報が渡ってしまい、IMFはその情 報が偽物と思わせる論理的なストーリー展開になる。これに対して、「欺瞞作戦」では全く反対の作戦で、偽物の情報を敵に本物と思わせるもので、敵に見破 らせるのを前提にした作戦は論理的にも複雑で難解になっているが、その奥の深さには改めて驚かされるものである。そして、「処刑作戦」は本シリーズの最 高のエピソードの一つと絶賛されているもので、敵を監房に閉じ込めて死刑囚に仕立てて、死刑を目前にした心理描写が見事で、その余韻はドラマ終了後に も残る程である。
今後のエピソードの作戦や方向性を示唆するエピソードとしては、「甦ったプリンセス」ではシナモンが盲目の王女を演じるが、第6シーズンの「闇の中の追 跡」では、今度はジムが盲目の役割を演じることになる。また、「独裁宣言」では、初めて主役級の女性の悪漢が登場し、女性ならではのIMFの作戦によって フィナーレでは視聴者をアッと言わせるものになっている。その後、女性悪漢が幾人も登場することになる。そして、「スパイ交換作戦」では初めてIMFメンバー が敵に捕まってしまい、今後、このようなシチュエーションは頻繁に登場することになる。
その他のエピソードで変り種としては、二部作である「奇跡のカムバック」でバーニーがトレーニングを積んでプロボクサーに扮するエピソードがあったり、ある いは、こちらも二部作である「地下百メートルの円盤」では、いつも敵に変装をするローランが、珍しく敵に倒されて、自分の顔に石膏をつけられて敵に変装され てしまうという皮肉的なシーンが見られる。また、「幻の殺人」ではシナモンが下着姿で登場し、シリーズがお色気路線に転向してしまったのかと思わせるよう なエピソードもある。
表舞台の華やかさとは反対に、スタッフとスタジオの対立は次第に表面化してくる。スタジオの経営は副社長のダグラス・クラマーに任され、彼は「スパイ大 作戦」や「スター・トレック」などの製作経費を抑えて、その浮いた資金で新しいドラマを製作しようと考えていた。しかし、そういったクラマーの立場にお構いな く、ブルース・ゲラーは製作予算に全く注意を払うことなく、常に予算オーバーを繰り返していた。ブルース・ゲラーはドラマの製作にこだわりを持っていて、一 度、彼が動き出したら、もう誰も彼を止めることができなかった。ゲラーには、「スパイ大作戦」の再放送や海外における評判から大きな利益をもたらすという確 信を持つと同時に、何が何でもドラマの質を高めたいという強い意気込みがあった。
「スパイ大作戦」のドラマ製作に関しては、ブルース・ゲラーは8日間のスケジュールを立て、それも2日間以上の延長が常習化していた。ここで、クラマーと ゲラーの対立が生まれるが、最初のうちはゲラーがクラマーを無視するという態度を取った。しかし、クラマーがゲラーにプレッシャーをかけるにつれ、ゲラーは 怒ってCBSの幹部たちと結託して、逆にクラマーにプレッシャーをかけるという戦法を取った。次第に開花してきた「スパイ大作戦」を重視するCBSにブルー ス・ゲラーと彼のやり方を全面的に支持させ、CBSのヒットシリーズに文句のある奴とは今後一切話をしないと言わしめたのである。こうしてクラマーとゲラー 間の冷戦状況下、ゲラーはステージでは独裁者として常に振る舞い、こうした彼の態度からスタッフの中にも面白く思わず、離反する者が出てくるのである。
製作者ジョセフ・ガントマンが第2シーズンで退き、その後任にはウィリアム・リード・ウッドフィールドとアラン・バルターの脚本家コンビが昇格した。ところが、 このコンビはキャストには評判がよかったものの、スタッフとの折り合いが頗る悪く、さらに、ブルース・ゲラーとも対立していた。二人はブルース・ゲラーが「ス パイ大作戦」を残して出ていくべきだと常々考えていたが、スクリプトを修正しろとブルース・ゲラーが主張したことに腹を立て、口論の末、辞めてしまったのだ。 ブルース・ゲラー以上に、「スパイ大作戦」を理解していた二人が抜けた穴は大きく、すぐにスクリプトの不足という問題に直面するのであった。
しかし、いなくなった二人の後任の製作者として、スタンレイ・カリスが招かれた。また、「スパイ大作戦」の脚本家としてポール・プレイドンが全く申し分ないと いうことが判明した。「スパイ大作戦」をよく理解できないスタンレイ・カリスは専らポール・プレイドンのスクリプト・コンサルタントとして機能した。ポール・プレイド ンのデビュー作となった「欺瞞作戦」は、従来にない知的に輝く濃厚な心理作戦を展開し、次作の「一千万ドル強奪事件」や「地下百メートルの円盤(二部作)」 などを手がけてシリーズに新しい気風をもたらした。そして、ポール・プレイドンは急ピッチでスクリプトを書き上げ、スクリプトの不足は即座に解消されるのであ った。
ブルース・ゲラーが妻とハワイに旅行して不在中、再び製作費の問題が浮上する。スタンレイ・カリスはゲラーのように無作法には振舞わず、可能な限り製作 費を節減する努力をしてスタジオ経営に協力する姿勢を見せたのだ。二人の天才的な脚本家兼製作者を失った第3シーズンであったが、その後釜のスタンレ イ・カリスとポール・プレイドンの二人の活躍で何とか無事に乗り切るのであった。
シーズンが終了して、ニールセンの格付も前年の32位から一挙に11位までの上昇を果たした。同じ放送時間帯のABCとNBCのライバル番組に打ち勝つ ことで、「スパイ大作戦」の人気も頂点を極めていた。コマーシャルの金額も空前の高い水準まで上昇したと言われている。さらに、エミー賞においても8部門 でノミネートされて2部門で受賞し、バーバラ・ベインは3年連続して主演女優賞という快挙を達成したのだ。しかし、この時は誰もこの後に「スパイ大作戦」の 人気が下降線をたどる運命にあるということに気がつかなかった。そして、第3シーズン終了とともに主演俳優二人の退場という信じられない事件が勃発する のであった。 |
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【放映時期】69/09/28―70/03/29 (全26話)
【レギュラー】オープニングのクレジットについては、下記のようになっている。
Starring PETER GRAVES,
Starring LEONARD NIMOY as Paris,
GREG MORRIS,
PETER LUPUS
【製作】スタンレイ・カリス(16)、ブルース・ランズバリー(10)
【脚本】ローレンス・ヒース(8)、ケン・ペットス(6)、ポール・プレイドン(5)、ジェリー・ルドウィッグ(2)、リー・ヴァンス(2)、ドナルド・ジェームス、ハワード・バー ク、ロバート・マルカム・ヤング&ケン・ペットス
【監督】レザ・S・バディイ(7)、バリー・クレーン(4)、ポール・クラズニー(4)、ムレイ・ゴールデン(3)、マーヴィン・チョムスキー(2)、アラン・グリーディ、ヴァー ジル・ヴォゲル、ギオーグ・フェナディ、ジェラルド・メーヤー、スチュアート・ハグマン、ハーブ・ウォラーシュタイン
【エミー賞】 6部門でノミネートされ1部門で受賞
音響部門賞:ゴードン・デイ、ニック・ガフェイ
【解説】第4シーズンは1969年9月28日に放映された「暗号解読」より1970年3月29日の「ヤング・パワー」までの全26話である。製作はスタンレイ・カリ スとブルース・ランズバリーが担当している。脚本はローレンス・ヒースの8作品を筆頭に、以下ケン・ペットスが6作品、メインライターのポール・プレイドンは5 作品にとどまった。
第4シーズンに入る前、ピーター・グレイヴスは早々と賃金交渉を終えていたが、マーティン・ランドーは済ませていなかった。パラマウントはランドーに対し て、ピーター・グレイヴスと同額の提示をしたが、ランドーはこれに満足せず、さらに高い賃金を要求したのだ。その内容は当時のテレビ界としては破格の金額 であったとともに、ピーター・グレイヴスとの契約の中で、シリーズ・レギュラーがグレイヴス以上に支払われないという特約があったため、ランドーの要求を呑 むということはピーター・グレイヴスの賃金も同条件にする必要があった。
これに対して、CBSはマーティン・ランドーのショーへの貢献度を評価し、ランドーの要求通りの賃金をパラマウントに支払うように指示したが、ダグラス・クラ マーはこれに従う気持ちは毛頭もなく、ピーター・グレイヴスの条件を視野に入れながら、ランドーと妥協点を見出す策を練っていた。そして、クラマーは金額を 要求額通りにするものの、第4シーズン全26話のうち、半分にランドーが出演するという苦肉の策を提示するが、ランドーはこれを拒否した。ランドーはこの条 件を聞き、自分が次第にショーから外されていくことを直感したと言われている。
マーティン・ランドーとの賃金交渉の結論が出ないまま、第4シーズンの開幕の二部作「麻薬B−230」の撮影が始まろうとしていた。ブルース・ゲラーとスタ ンレイ・カリスは、ランドーの代役を探し始めていた。「ナポレオン・ソロ」のロバート・ボーンや「ワイルド・ウェスト」のロス・マーティンなど豪華メンバーが候補に 挙がったが、結局、選ばれたのが「スパイ大作戦」の隣に3年間いた「スター・トレック」のレナード・ニモイであった。しかし、ゲラーとカリスの二人はその時、レ ナード・ニモイは単なる代役であり、決してマーティン・ランドーの後釜というようには考えていなかった。
ところが、マーティン・ランドーとの賃金交渉が決裂する結果となったパラマウントは、今度はレナード・ニモイに対して、マーティン・ランドーの後釜に座るオフ ァーを提示するのだ。これに対して、ランドーと旧友であるニモイは早速連絡を取り合うが、ランドーのショーには戻らないという返事を聞き、「スター・トレック」の スポックのイメージを払拭し、演技派俳優として再出発したかったニモイは「スパイ大作戦」へのレギュラー出演を受諾するのであった。こうして、偉大なるパリ スが誕生することになるが、時間的余裕がなかったことから、パリスの変装やマジックなどの能力については、ローランと同等という設定がされる。このこと が、かえってレナード・ニモイの個性を出すことを阻む結果となり、彼が2つのシーズンしか「スパイ大作戦」にいられなくなるという不幸な結果をもたらすとは、 その時は誰も思いつかなかったのである。
一方、バーバラ・ベインにも同時に賃金交渉の問題が浮上していた。彼女は3年連続してエミー賞で主演女優賞受賞を達成したにもかかわらず、パラマウン トが提示した金額はランドーの半分にも満たないものであった。ランドーと違って彼女は、金額に対して満足とも不満足ともコメントをしなかったが、業界新聞の 中で、彼女が「スパイ大作戦」に戻らないだろうという記事を読んで非常に気分を悪くしたと伝えられている。そして、新シーズンの衣装会の度重なるキャンセ ルの挙句に、バーバラ・ベインは公式に「スパイ大作戦」には戻らないと発表したのである。また、パラマウントの報道により名誉を傷つけられ、契約違反という ことでパラマウントを訴えると言うと、パラマウントもこれに反論し、両者は泥仕合を露呈する結果となってしまう。
パラマウントのマーティン・ランドー、バーバラ・ベインに対する扱いに、CBSの幹部は気が動転してダグラス・クラマーを罵倒した。これに対してクラマーも譲 らず、ランドーもベインもシリーズにはもはや必要ではなくなったと結論づけてしまうのであった。結局、傍目から見ると、金に欲が眩んだランドーとベインの完敗 であった。その後の二人には、長期にわたってトラブルメーカーというレッテルが貼られ、とりわけベインに関しては製作サイドからも敬遠されるという状態がし ばらく続く。
しかしながら、バーバラ・ベインの後任はなかなか見つからず、「麻薬B−230」の中でダイナ・メリルが後任になったと一度はパラマウントが公式に発表する ものの、ダイナ・メリルは「麻薬B−230」のみの出演で終わってしまった。ブルース・ゲラーは何人かの女優リストを作成したが、ダグラス・クラマーはダイナ・ メリルを選択した。これに対して、ゲラーは「地下百メートルの円盤」にゲスト出演したリー・メリウェザーを選んだ。彼女は「第三次世界大戦」、「ロボット」、「海 の底で口を割れ!」、「王家の血(三部作)」の6話のエピソードに登場している。ところが、第4シーズンの残るエピソードについては、毎回、ゲスト女優が交代 でシナモンの代役を演じるというスタイルが取られる。毎週、違うタイプの女性エージェントの活躍が見られると喜ぶファンがいる一方、「スパイ大作戦」の大半 のファンはレギュラーの女性エージェントを欲しがっていたのである。
マーティン・ランドーとバーバラ・ベインに並行して、グレッグ・モリスも賃金交渉をしていた。賃金交渉というよりも、むしろ、彼の交渉代理人がパラマウントよ り侮辱を受けたことに相当腹を立てていた。交渉の結果によっては、グレッグ・モリスは「スパイ大作戦」からの永久の離脱を考えていたようだが、ブルース・ゲ ラーと直接対話して問題点がクリアされ、わずかばかりの昇給を得て留まることになった。グレッグ・モリスは主演の二人のように争うような交渉には全く興味 がなかったし、また、マスコミを巻き込んだ騒ぎを望まなかったので公にはならなかった。
スタッフに関しても離反者が出てしまった。「スパイ大作戦」の第4シーズン途中、同じCBSで放送されていた「ハワイ5−0」は第2シーズンを迎え、製作上 の苦しみに喘いでおり、製作総指揮のレナード・フリーマンはスタンレイ・カリスを誘った。カリスはこの話に喜んで飛びつくが、ブルース・ゲラーは猛反対した。 しかし、カリスは「スパイ大作戦」を自分の思うように製作できない束縛感を常に持っていて、結局、「暗殺者には面がない」を最後に去ってしまうのであった。 彼の後任には、CBSで放送終了となった「ワイルド・ウェスト」の製作者だったブルース・ランズバリーがあたることになった。
ブルース・ランズバリーはゲラーよりもダグラス・クラマーの言うことに耳を傾け、ドラマの質は幾分落ちたものの製作予算をうまく抑え、ゲラーの発言権も次第 に弱まっていくのであった。そして、ランズバリーは独自色を出して、過去3シーズンより低予算のドラマでもはるか価値のあるように見せることをして大きな貢 献をした。
また、脚本家のポール・プレイドンにも異変が起こっていた。それまでに数々の知的な優れたスクリプトを量産しており、シリーズ初の三部作「王家の血」も評 価が高かった。ところが、次の「時限原子爆弾」を執筆中、彼は完全に自信を失くしてしまい、これ以上「スパイ大作戦」を書けないと自覚してしまうのだった。 それまで約1年半にわたり、締め切りに間に合わないのではないかと常に神経をすり減らすようなプレッシャーの中、たった一回の挫折で何かプツンと切れる ようなものがあったのだろう。
第4シーズンが終了する頃、ニールセンの視聴率格付が前年の11位から53位という悲惨な結果に終わった。この数字は第1シーズンのレベルまで一挙に 転落してしまったことを意味し、CBSは自身の看板番組を傷つけたパラマウントの幹部に対して相当怒った。通常ならここで放送打ち切りになるのだが、「ス パイ大作戦」を看板番組と位置づけていたCBSの強いバックアップのおかげで次シーズン以降も続投が決まるのである。番組の中の微妙な作用により番組 が壊れてしまうという事実を皆が目の当たりにするのであった。
視聴率低下の最大の理由はマーティン・ランドーとバーバラ・ベインの抜けた穴が大きかったということであろう。従来の「スパイ大作戦」のファンは二人の活 躍が見られなくなり失望するとともに、マーティン・ランドーの後釜のレナード・ニモイは有効であったが、一人の女優が様々な役割を演じることになれていたほ とんどの視聴者は、数人のゲスト女優が交代で登場するシチュエーションに馴染まなかったのだ。
レナード・ニモイ自身も、第4シーズンの内容の水準が過去の3シーズンと比べて落ちていることを実感し、感動するどころか失望していた。その大きな原因 は、第3シーズンにおけるウィリアム・リード・ウッドフィールドとアラン・バルターの失脚と考えていた。また、自分が演じる内容もマーティン・ランドーの二番煎じ であり、自分の演技力を生かせないのではないかと感じていた。そして、この悩みと不満は第5シーズンに入って爆発するのである。
シーズン全体のエピソードの質は落ちたと言われるものの、中には秀作も存在し、第5シーズン以降と比較してもそれ程大きく質が落ちたとは思えないし、む しろ、合格点をつけられるレベルであろう。特に印象の残るエピソードとして「第三次世界大戦」では、世界終焉のトリックとジムとパリスが反目する作戦を巧み に用いて、最後に秘密の銀行口座番号を敵から聞き出すというものである。また、「海の底で口を割れ!」においても、潜水艦の偽装旅行のトリックとジムとパ リスが反目する作戦から敵の自尊心をうまくくすぐり、25年間口を閉ざし続けた秘密の銀行口座番号を悪漢が自ら喋り出すというものである。そして、ドラマが 終了してもその余韻が残り、本シリーズでも屈指の代表作である。そして、初の三部作となった「王家の血」では、王族の三人を次々と救出する一方、権力を 狙う将軍の野望を粉砕するという作戦が数々の小道具やトリックによって見事に描かれている。しかし、視聴率がすべてのテレビ業界において、ここまで落ち てしまうと評価は天と地ほどに変わってしまうものなのだ。 |
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【放映時期】70/09/19―71/03/17 (全23話)
【レギュラー】オープニングのクレジットについては、下記のようになっている。
Starring PETER GRAVES,
Starring LEONARD NIMOY as Paris,
Also Starring LESLEY WARREN,
GREG MORRIS,
PETER LUPUS (SAM ELLIOTT)
サム・エリオットについては、ピーター・ルーパスが出演しないエピソードに限って本来ピーター・ルーパスが登場するところがサム・エリオットに置き換えられて 表示される。
【製作】ブルース・ランズバリー(17)、ローレンス・ヒース(6)
【脚本】ハロルド・リビングストン(4)、アーサー・ウェイズ(3)、ウェスリー・ロウ、エド・アダムソン、エド・アダムソン&ケン・ペットス、エリック・バーコビッキ&ジ ェリー・ラドウィグ、ケン・ペットス、ジーン・R・キアニー、ジェームズ・L・ヘンダーソン&サム・ローカ、ジャクソン・ギリス、ジョン・D・F・ブラック、デヴィッド・モー シンガー、ハワード・ブラウン、ヘレン・ホブロック・トンプソン、ポール・プレイドン、マーク・ノーマン&ローレンス・ヒース、マン・ルービン、ローレンス・ヒース
【監督】バリー・クレーン(4)、ヴァージル・W・ヴォーゲル(3)、レザ・S・バディイ(3)、ジェラルド・メイヤー(2)、ジョン・L・モキシー(2)、ポール・クラズニー (2)、マレー・ゴールデン(2)、サットン・ローリー、セイモア・ロビー、チャールズ・R・ロンドウ、テリー・ベッカー、レオン・ベンソン
【エミー賞】 2部門でノミネートされ1部門で受賞
ボブ・ドーン「死体は一切関知しない」におけるニモイのメーキャップ
【ゴールデン・グローブ賞】
最優秀TV俳優(ドラマ):ピーター・グレイヴス
【解説】第5シーズンは1970年9月19日に放映された「殺し屋」より1971年3月17日の「死の商人」まで全23話である。製作はブルース・ランズバリーとロ ーレンス・ヒースが担当している。脚本は、メインライター不在の中、ハロルド・リビングストンの4作品以下大勢の脚本家が参加している。
第4シーズンで大きく人気を落とした「スパイ大作戦」だったが、いくつかの原因が考えられた。マーティン・ランドーの不在はともかく、レギュラー女優の不 在、製作費予算を抑えるためにパラマウント近辺での頻繁なロケ撮影による画面上のマンネリ化した景色があげられる。これらの点を踏まえて、レギュラー陣 の若返りと補強がなされた。そして、第5シーズンは今までにない大幅な改革がされるのである。
まず、考えられたのが、スクリプトにおけるIMFの活躍する舞台設定である。第4シーズンの全26話のうちの七割に相当する18話がヨーロッパの国という設 定だった。以下、ラテン・アメリカが4話、中近東が2話で全体の九割以上が海外でIMFが任務を行うというもので、アメリカ国内で活躍するものはわずか2話 に抑えられていた。そして、ヨーロッパを舞台にするときは、いつも西側と東側に世界を明確に分け、鉄のカーテンの向こう側の人物は常に悪者というように定 義づけられていた。当時はまだ東西冷戦下にあったが、かといって東西間で全くコミュニケーションがなかった訳ではなく、このような設定は時代の流れにそぐ わないのは明らかであった。
さらに、60年代後半に勃発した学生運動やベトナム戦争におけるアメリカの軍事関与が次第に批判的になるにつれて、アメリカの外交政策の転換も余儀な くされ、世間一般としても海外への内政干渉は好ましくないという風潮が強くなってきたのだ。そこで、「スパイ大作戦」においても、極力IMFが海外に遠征する ようなストーリーを避けるようにする姿勢を見せ始め、アメリカ国内に目を向けて社会の悪であるギャングやシンジケートと戦うエピソードの比率が高くなってく る。ただ、第5シーズンでは海外任務が14話に対して国内任務が9話となっており、完全に国内任務にシフトしきれない結果であるが、第6シーズン以降は完 全に国内任務主導のシリーズとなるのだ。
次に考えられたのが、シリーズの定番となっていた3つのシーンの削除という大胆な策を打ち出す。3つのシーンというのは、本編に入ってからの冒頭部分 で、IMFリーダーがテープとかレコードその他の指令を記録してある媒体を探し、封筒に入れてある敵側の重要人物の写真を見ながら指令を聞き、記録が自 動的に消えるシーン、そして、リーダーが作戦を練った後、アパートのコーヒーテーブルで適任メンバーを黒いファイルから選び出すシーン、最後に、選ばれたメ ンバーがリーダーのアパートに集合して作戦の打ち合わせをするシーンのことである。特に、適任メンバーを黒いファイルから選び出すシーンについては、視聴 者が見慣れてしまうと退屈に思えてしまうので、今までもしばしば省略されてきた。ブルース・ゲラーはこれらのおなじみのシーンを削除することによって、劇中 で視聴者が予測不能な意外な出来事を起こして、順調に任務が遂行しないことでサスペンスを高めようと考えていた。そして、「素人スパイ」ではIMFのメンバ ーが殺されたり、「生きた研究ノート」、「殺しのセンター」、「銃殺」ではメンバーが拉致や誘拐されたり、あるいは、「生きた研究ノート」「スパイ狩り」においては メンバーが銃弾を受けたりとこれまで以上のピンチを描いた。
実際、第5シーズンに入ると、約半数のエピソードで3つのシーンがないエピソードが続く。本編が始まると、すでに任務が進行しているというものまで現れ た。しかし、これが誤りであることに気がつき、シーズン半ばには復活するのである。この試みは、いわば「スパイ大作戦」のトレードマークとなっているものをす べて取り去ってしまったことになり、視聴者の不評を買ってしまう結果となる。さらに、テープシーンとアパートシーンはこれから展開される任務の内容を解説す るもので、視聴者が解説的なシーンも与えられず、既に進行中である任務の難解なシーンの中に入り込むことを困難にした。ということは、内容がわからなけ れば視聴者も面白くないので、チャンネルを他の番組に変えてしまうことから、テープシーンとアパートシーンは復活するのだった。
もう一つ試みられたものとして、それまでタブー視されてきたIMFメンバーのキャラクターに人間性を持たせるというものだった。それは、「血塗られた故郷」に おけるリーダーのジム・フェルプスの生家と幼友達の登場、あるいは、「黒い犯罪組織」におけるバーニー・コリアの兄である新聞記者ラリー・コリアがいきなり 爆死するという個人のストーリー展開という形で現れる。それまでも、IMFメンバーのキャラクター描写はなくもなかったが、このようなシーンは今までのシリー ズではとても考えられなかったものである。しかし、このような試みは従来の「スパイ大作戦」ファンには受け入れ難いことが判明する。
さらに、第5シーズンの途中でショーのフォーマットの変更がなされた。従来は、テーマミュージックの後、本編に入ると最初に必ずテープシーンが登場してい たが、新しいフォーマットは本編に入ってから敵役のシーンを見せ、その中で悪漢が殺人を犯したり、あるいは何か悪事を働いたりするものである。その後、テ ープシーンが続き視聴者にこれから始まるストーリーに入っていきやすい構成になった。番組の冒頭で視聴者が興味を示さなければ、他のチャンネルに変えら れる可能性があるということを製作サイドが強く認識をしたということだろう。この構成は功を奏して第7シーズンまで続くことになる。
第5シーズンのエピソードは、かつての大作と呼ばれるものと比較するとやや小粒になってしまう。その中でも印象の残るエピソードをいくつか拾いあげてみ ると、「"怪物"粉砕作戦」は本シリーズ初の日本を舞台設定にしている。また、「殺し屋」では従来にないタイプの悪漢が登場し、自分の思いつきで行動するの で、IMFがあらかじめ作戦を準備することができずに珍しく振り回される。他には、IMFメンバーのミスが他のメンバーの命を危うくするという異色のエピソード 「大量殺戮兵器"デホミナント"」と、数人の警備兵が見張っている棺を屋根裏から持ち上げるというスリル満点の「死体は一切関知しない」が印象深いエピソ ードである。パリスが親子二代に渡って扮するというのも面白い。また、「暗号名"キタラ"」では、人種差別をしている高官がIMFの策略によって、最後に人種 差別される側になるという風刺の効いた内容である。
「スパイ大作戦」にレギュラー女優が必要とされていた問題に関しては、第5シーズンで一応の決着を見せた。第4シーズン最多出場のリー・メリウェザーに 決まったと思っていた者がいたり、あるいは、「暗殺者には面がない」に出演して怪しくセクシーな演技をしたジェシカ・ウォルターを支持する者がいたり、「盗ま れた化学式」に登場したアン・フランシスもその候補に挙がっていた。しかし、大方の期待を裏切って23歳の若い美人女優のレスリー・アン・ウォーレンに決定 した。これは、さらに若い視聴者を獲得するためにダグラス・クラマーとブルース・ランズバリーが選択したもので、ブルース・ゲラーは彼女のことを気に入らずに 反対したが、二人に押し切られてしまった。結局、若くて有能で美人でもある彼女は恋愛魔術師のように、次々と敵の要人に恋愛がらみの罠を仕掛けていくの が主な役どころである。
さらに、ブルース・ランズバリーは若くてスキルを持ったキャラクターを欲しがり、医者のダグ・ロバート役としてサム・エリオットを起用した。そして、ウイリー役 のピーター・ルーパスが賃金と自分の配役に不満を持っていたので、彼の価値を理解しないランズバリーは、これはいい機会として彼を外そうとした。これに対 して、ブルース・ゲラーは猛反対してピーター・ルーパスが地味であるものの重要な役割を担っていると主張したのである。
ピーター・ルーパスが出ないことに対する視聴者の否定的な反応もさることながら、CBSには彼を支持するたくさんのファンレターが殺到したと言われてい る。ピーター・ルーパスのファンの支持が製作スタッフの認識しているよりもはるかに根強かったということだ。「スパイ大作戦」において、ウイリーの役があまり 重要な役柄でなかったが、視聴者はそんなウイリーに対して最も親近感を持ち続け、支持していたということが判明したのだ。また、いつも目立たない暗い所 でバーニーとともに作業をコツコツする役割が「スパイ大作戦」に欠かせないということをスタッフらは気がつくのだった。しかし、ルーパスは精神的にも大きく傷 つき、一度はショーに戻らないことを覚悟するが、友人らに別のヒット作を見つけて出演するのは困難と説得され、ピーター・ルーパス本人はあまり歓迎しなか ったようだが、結局、留まることを決意するのだった。そして、完全にキャストアウトすることなく、再復帰した。そんな訳で第5シーズンの全23話の内ピーター・ ルーパスが10話、サム・エリオットが11話、両者とも出演が2話ある。
「スパイ大作戦」の製作費が高価であり、いつも予算オーバーになり、面倒なことを引き起こす元凶ともいうべきブルース・ゲラーとパラマウント経営陣の確執 はここ数年来続けられてきたが、パラマウントはブルース・ゲラーの処遇についてある決断をした。とうとうゲラー不要論が優勢となって彼をショーから追い出す のであった。今後も製作総指揮として名前を残すものの、実質的に製作権を彼から奪ったのである。ダグラス・クラマーとブルース・ランズバリーのパラマウント 側の完全な勝利であったが、後味の悪い結果となった。しかし、ゲラーがいなくなっても、彼の腹心だったスタッフの心の中にはいつまでもゲラーの精神が生き 続けるのであった。
第4シーズンに53位まで落ちた視聴率も土曜日の7時30分に放送時間を移した第5シーズンは33位まで上昇し、第2シーズンのレベルまで回復すること ができたのだ。再放送の視聴率も好調で、パラマウントに巨額の利益をもたらした。「スパイ大作戦」のCBSとの契約は5年であったが、復活の兆しを見せて いる番組を手放す理由はなく、CBSはパラマウントとさらに高額になったライセンス料を含んだ契約を再度締結するのであった。 |
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【放映時期】71/09/18―72/02/26 (全22話)
【レギュラー】オープニングのクレジットは、下記のようになっている。
Starring PETER GRAVES,
GREG MORRIS,
Also Starring LYNDA DAY GEORGE,
PETER LUPUS
【製作】ブルース・ランズバリー(16)、ローレンス・ヒース(6)
【脚本】アーサー・ウェイズ(3)、エド・アダムソン&ノーマン・カトコフ(2)、サム・ローカ&ジェームズ・ヘンダーソン(2)、ハロルド・リビングストン(2)、ハワー ド・バーク(2)、ウォルター・ブロウ&ハワード・バーク、エドワード・J・ラクソ、エドワード・ラクソ&ケン・ペットス、ジェームズ・ブキャナン&ロナルド・オースチン、 ジェームズ・ヘンダーソン&サム・ローカ、ジャクソン・ギリス、ジャクソン・ギリス&ローレンス・ヒース、ダン・ウルマン、ハワード・ブラウン、ヘンリー・シャープ& キャリー・バテソン、ポール・プレイドン
【監督】レザ・S・バディイ(5)、バリー・クレーン(4)、ポール・クラズニー(4)、レスリー・H・マーティンソン(3)、マーヴィン・チョムスキー(2)、サットン・ローリ ー、ジョン・L・モキシー、ドン・マクドゥーガル、レナード・ホーン
【エミー賞】 2部門でノミネートされ受賞なし
【解説】第6シーズンは、1971年9月18日に放映された「闇の中の追跡」より1972年2月26日の「陸軍給与を奪回せよ」までの全22話である。製作は第5 シーズン同様、ブルース・ランズバリーとローレンス・ヒースが担当している。脚本はメインライター不在で、大勢の脚本家が参加している。
第5シーズンでIMFの活躍場所がアメリカ国内のギャングやシンジケートを相手にするエピソードの占める割合が増したが、第6シーズンになると、「時間差 で口を割れ!」と「毒ガス全市滅亡の危機」がテロリストを相手にするもので、他の全エピソードが国内問題を解決する構成に変わってしまった。ブルース・ゲラ ーが去ると同時に、もはや、IMFが海外に出向いて、その国の独裁者を退治するというようなストーリーは過去の話になってしまった。
第5シーズン終了とともに、大幅なキャスト変更が明らかになった。レナード・ニモイは自分に対して与えられた役柄に対して不満を抱いていたが、それが我 慢できなくなって「スパイ大作戦」から出ていくことを決意する。パリスが他の人物に変更すると、レナード・ニモイの演技が不要になったり、あるいは、3年間マ ーティン・ランドーが築きあげた人物像をそのまま引き継ぐ形となり、自分のオリジナリティを出し切れなかったことがその理由である。実際、ニモイは退屈に感 じてこれ以上パリスを演じても自分のためにはならないと考えていた。当初、パラマウントはニモイのこの申し出に対して、マーティン・ランドーと同様賃金交渉 策略かと疑い、彼の賃金交渉人もニモイの考えになかなか理解を示さなかった。しかし、ニモイは多くのギャラに目を背けて、それに決して後悔せずに自分の 信念に従って役者としての道を突き進むことを選択したのだ。しかし、彼の後釜となるレギュラーメンバーの補充はされなかった。
また、レスリー・アン・ウォーレンに関しては、女スパイとしては若すぎたということで番組には向かなかった。確かに「市長室乗っ取り」における学生の役など は、はまり役のようにも見えたが、他のメンバーの中に入ってしまうと年のバランスが悪く、ピーター・グレイヴスと並ぶとまるで親子のように見える程だ。彼女 は実際23歳だったが、童顔のため18歳ぐらいの女学生に見え、ラブシーンになるとまるで子供が演じているように見えてしまうという困った現象に陥る。前任 者の印象があまりにも強烈すぎたために損な役回りとなったことは否めない。視聴者はシナモンのような妖艶な美女を要求していたのだ。
さらに、ダグ・ロバート役のサム・エリオットについても、第6シーズンの最初のエピソード「時代逆行30年」の1話に登場したものの、これが最後の出演とな ってしまった。彼は全14話に登場し、医者の役割を演じることもあったが、ほとんどは医者の能力を生かすようなものではなくウイリーの代理を担うもので、医 師の諜報員は必要ないということが結論づけられたのであった。
結局、三人のレギュラーが去ってしまったが、新規に参入したのは、ケーシー役のリンダ・ディ・ジョージのみだった。彼女の役割は、パリスとダナを合わせた ような内容で、変装のエキスパートでかつ主役女優の機能を発揮するというもので、実に経済的な方法で製作予算の縮小を意図したものであった。今後、第7 シーズンまでIMFのレギュラーメンバーは四人体制で行われることになる。ケーシーは、後の「新スパイ大作戦」でゲスト出演する。その時はリサと呼ばれてお り、本シリーズをずっと見ていた者にとって非常に違和感を覚えるが、どうやら、リサ・ケーシーがフルネームのようである。
キャストの人数が減ったことにより、今まで脇役で甘んじていたグレッグ・モリスとピーター・ルーパスにスポットを当てたエピソードが作られるようになる。「殺 し屋製造工場」と「自白テープ」はバーニーが主役になっているし、「一千万ドルの拷問」ではウイリーが大きなポイントになっており、最後に女性同伴で逃げる というおまけまでついている。
第6シーズンのエピソードで印象の残るものとしては、たかが二人の老人を騙すために、大金を投じて大掛かりなセットと人員を準備し、時間を30年も遡らせ るトリックを用いた「時代逆行30年」は秀作の部類に入るだろう。また、ジムが盲目の元警察官に扮する「闇の中の追跡」では、IMFメンバーがジムを心配そう に見守る姿が印象に残る。「殺し屋製造工場」では、普段クールなバーニーが、敵の心理的作戦にはまってしまい、半狂乱になって殺人者に仕立てられる。そ して、永遠の命をトリックに使う「巨大シンジケートをたたきつぶせ」はSF色の強い異色のエピソードである。「死を呼ぶカード」では、IMFが敵に催眠術をかけ てカードを見るごとに気を失わせて、気がつくと殺人を犯しているというもので、これを3度も続けることによってコミカルに描かれている。
ブルース・ゲラーの去った後、「スパイ大作戦」の製作費削減に貢献したブルース・ランズバリーはシーズン途中でパラマウント・テレビの副社長に抜擢され た。製作の後任には、第5シーズンに一部の製作を担当した脚本家のローレンス・ヒースが担った。さらに、オープニングのブルース・ゲラーの手がマッチに火 をつけるシーンも差し替えられて、完全にゲラーイズムからの脱却が試みられた。
第6シーズンから土曜日の7時30分から10時に放送時間が変更になり、視聴率も前年の33位から31位に若干上昇した。そして、同時間放映のABCとN BCの番組を上回る実績を残し、第7シーズンの放映継続も決定される。これには、リンダ・ディ・ジョージの加入とその演技力による貢献が大きかった。しか し、内容的には製作経費も抑えられ、国内のシンジケートばかり相手にするIMFの活躍は刑事・探偵ドラマの様相を呈し、エミー賞に2部門でノミネートされた が、初めて受賞を逃す結果となった。 |
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【放映時期】72/09/16―73/03/30 (全22話)
【レギュラー】オープニングのクレジットは、下記のようになっている。
Starring PETER GRAVES,
GREG MORRIS,
Also Starring LYNDA DAY GEORGE,
PETER LUPUS
第6シーズンと同じメンバーである。リンダ・ディ・ジョージが出産で休みをとった72年9月から11月放映分において、代役のミミ・デイヴィスを演じるバーバラ・ アンダーソンが出演するエピソードでも、クレジットはリンダ・ディ・ジョージがそのまま流された。
【製作】バリー・クレーン(21)、ローレンス・ヒース(1)
【脚本】ハロルド・リビングストン(3)、サム・ローカ&ジェームズ・L・ヘンダーソン(2)、ステファン・カンデル(2)、ハワード・ブラウン(2)、リー・ヴァンス(2)、 A・ボウワーズ&A・ウェイズ&S・カンデル、アーサー・ウェイズ、アーノルド&ロイス・ペイサー、エドワード・J・ラクソ、カルビン・クレメンス・ジュニア、ジェーム ズ・J・ブキャナン&ロナルド・オースチン、ジョージ・F・スラビン&ステファン・カンデル、ステファン・カンデル&ニコラス・E・ベイアー、ダグラス・ワイア、バック・ ホウトン&ステファン・カンデル、ルー・ショウ
【監督】レスリー・H・マーティンソン(6)、バリー・クレーン(3)、ポール・クラズニー(3)、ルイス・アレン(3)、レザ・S・バディイ(2)、ヴァージル・W・ヴォーゲ ル、サットン・ローリー、デヴィッド・ローウェル・リッチ、テリー・ベッカー、ピーター・グレイヴス
【エミー賞】 3部門でノミネートされ受賞なし
【解説】第7シーズンは「スパイ大作戦」にとって最終シーズンとなってしまった。1972年9月16日に放映された「対決!ハスラーの決戦」より1973年3月3 0日の「王冠すりかえ大逆転」の全22話である。製作はローレンス・ヒースが1話担当した以外はすべてバリー・クレーンが担った。
さすがに「スパイ大作戦」も第7シーズンに突入すると、ネタ切れを起こしたようで、いくつかのエピソードは過去のシーズンのものを書き直すことが試みられ た。たとえば、「第三次世界大戦勃発」は第1シーズン「大量殺戮者」の書き直しで、また、「殺人請負人」は第6シーズンの「自白テープ」の改造であった。特 に、ステファン・カンデルは過去のシーズンでコストや質あるいはその他の理由でお蔵入りになっていたスクリプトを再生する作業を好んで行った。
第7シーズンのエピソードで印象の残るものとしては、時間のトリックと世界終焉のトリックの併せ技で、敵の自尊心からプルトニウムの隠し場所を聞き出す 「第三次世界大戦勃発」は秀作の部類に入る。また、米国の最終回になった「王冠すりかえ大逆転」では、バーニーと女悪漢との愛を偽装した掛け合いが面 白く描かれている。そして、米国に亡命を表明した敵国の殺し屋に翻弄される「暗殺目標変更」と、銃撃戦で敵にうまく出し抜かれるという失態を犯す「恐怖! 人工大地震」では、いつもと違ったIMFの苦悩が描かれている。また、「指令なき作戦計画」は第6シーズンの「シンジケートから来た男」の続編でもあり、敵の IMFへの復讐からジムが捕らえられ、残りのメンバーでジムの救出をするというもので、ストーリーも二転三転する展開が見事である。ピーター・グレイヴスの 唯一の監督作品でもある。
第6シーズンの終わりにリンダ・ディ・ジョージが妊娠していることが発表された。第7シーズンに入って最初の4エピソードで彼女は出演するが、うち2エピソ ードはケーシーが他人に変装する設定になっていたので、ほとんどのシーンはリンダ・ディ・ジョージを必要としなかった。また、残りの2エピソードについても見 張りや事務員の小さな役で登場シーンも少ない。彼女のお腹もかなり目だっており、撮影も彼女の下半身を映さないように机や椅子などの背後に配置して行 われた。その後、彼女は産休を10週間取ることになるが、劇中でジムによってケーシーがヨーロッパに長期出張中と珍しく説明されることになる。メンバーの 不在については今まで無視し続けてきた中で、このようなシーンは「スパイ大作戦」史上初めてのことである。
彼女の代役として、バーバラ・アンダーソンが起用され、ミミとして全部で7エピソードに登場することになる。ミミに関しては、「対決!ハスラーの決戦」のエピ ソードの中で、元ボーイフレンドであるギャングの罠によって、刑務所に入れられた経験を持つが、その元ボーイフレンドに復讐するためにIMFに協力してギャ ングに罠を仕掛ける重要な役割を演じることや、ケーシーが戻ってくるまで、その代役として今後もIMFの任務に携わるということが、フェルプスより他のメンバ ーに対して説明される。メンバーをこのようにスカウトするというシーンも全く初めてのことである。
ところが、アメリカ本国の初回放映時には、ケーシーが登場するエピソードとミミが登場するエピソードが交互に放映されてしまっている。製作オーダー順に 放映されていれば、このようなことにならなかったのだが、「対決!ハスラーの決戦」でヨーロッパ出張のケーシーが翌週放映の「第三次世界大戦勃発」で登 場してしまう。その翌週「国境を突破せよ!」ではミミが登場し、「極秘指令地獄からの救出」では再びケーシーが登場する。その後、「細菌兵器TOD−5」で はミミが登場し、次の「500万ドル麻薬合成計画」でもミミが登場し、その中で再びジムがケーシーはヨーロッパに長期出張中と劇中で言及するのである。とこ ろが、翌週の「脱出請負業」ではケーシーが現れ、「戦慄"殺しの横顔"」、「将軍の仮面をはがせ」、「水爆仕掛人」と三週に渡ってミミが登場し、次の「指令な き作戦計画」よりケーシーが再復帰している。さぞかし、当時の視聴者は混乱したのではと推測できる。さらに、この間に撮影された「王冠すりかえ大逆転」が 最終回にまわされ、当然のことながらケーシーは登場しない。
第7シーズンの視聴率の格付が57位と急降下してしまい、過去最悪の結果となった。シーズンの途中で「スパイ大作戦」がもはや今シーズン限りだと思う 者がいたくらいで、スクリプトの質も落ちてエミー賞の受賞も逃し、放送終了は当然の結果だったとも言える。しかし、最終的な決定が下されるまで、脚本家た ちは第8シーズンに向けて準備をしなければならなかった。数話分のスクリプトが書かれたということだが、その中のステファン・カンデルが書いたものは、第5 シーズンの「殺し屋」で登場した悪漢エディ・ローカが蘇ってIMFのリーダーの命を狙うというものだった。何と、この発想が15年後の「新スパイ大作戦」の第1 話で生かされることになるとは誰も気がつかなかった。
1973年2月9日、パラマウントからCBSに正式にその死が宣告された。7年間にわたって続いた「スパイ大作戦」も視聴者、キャスト、スタッフによって飽き られ、また、ストーリーもネタが尽きて疲れており、これが潮時だと誰もが思った瞬間だった。グレッグ・モリスは、たとえ「スパイ大作戦」の第8シーズンが続い ていたとしても、彼自身は第7シーズンで卒業という決断を下していたので、放送終了という結果に理解を示した。結局、テレビ放映上では、「王冠すりかえ大 逆転」が最終回ということになってしまったが、内容は全く最終回らしくなく、エピソードの終わり方も、他のエピソードと同様、任務完了後にメンバー全員が車 に乗って逃げていくおきまりのシーンで番組を締め括っている。この後、「スパイ大作戦」は再放送やビデオ販売という形でロングヒットを続けるシリーズになる のであった。 |
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