スパイドラマ倶楽部・別館-スパイ大作戦専門館



エピソードガイド1



1 核弾頭を奪え Pilot
【目的】二つの核弾頭をホテルの金庫室から国外に無事に奪い出すこと
【指令】おはよう、ブリッグス君。サンタコスタの独裁者リオ・ドミンゲス将軍は、今度その司令部をナショナルホテルの中に構えた。ホテルの金庫室には反対 陣営から持ち込まれた核弾頭が二つ納められており、その使用は時間の問題だという情報が入った。
 さて、ブリッグス君。君に与えられた使命はその二つの核弾頭をサンタコスタから無事に奪い出すことだ。例によって方法とメンバーの人選はすべて君に任 せる。ただ、もちろん君もしくはメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。いつもの通りレコードの封を切って一分 後にこの録音部分は変質する。 では、ブリッグス君。成功と生還を祈る。
【スタッフ】
脚本・ 製作: ブルース・ゲラー Bruce Geller
監督: バーナード・L・コワルスキーBernard L. Kowalski
【ゲスト出演】
テリー・ターゴ:ウォーリー・コックス(田村錦人)Wally Cox as Terry Targo
アリシオ大佐:ハリー・デーヴィス(久保保夫)Harry Davis as Alicio
フロント:ポール・ミカレ(富田耕吉)Paul Micale as Desk Clerk
昼の金庫番:パトリック・キャンベル Patrick Campbell as Day Vault Clerk
夜の金庫番:フレデリック・ヴィラニ Frederic Villani as Night Vault Clerk
マネージャー:ジョー・ブリーン Joe Breen as Loft Manager
【場所】@指令(媒体):倉庫の荷物用エレベーターを昇ったところにある事務所。最初、ブリッグスは女性に話しかけるが通じず、上司と思われる男性に"ア ーネストボンド、ファンシュポニックオーケストラ パバーン1963年"といい、LPレコードを受領する。
A舞台:サンタコスカ(中南米)
【役割】ダン:バレッグ(宝石商)→テリーの代役で金庫室に侵入
ローラン:車椅子に乗ったシナモンの夫役→リオ・ドミンゲス将軍に変装→ダンに変装(核弾頭入りトランク受領)
シナモン:ホテルの宿泊客
バーニー:ねずみ駆除業者(将軍のTV中継中止の段取りと花火の打ち上げの準備)
ウイリー:アクセル(バレッグのアシスタントでトランクの運び屋)
テリー:金庫室の内側からドアをあける→ローランの代わりに車椅子に乗ってホテルを出る
【道具】@大きなトランク2個:中に人を入れて金庫室に侵入し、核弾頭を入れて金庫室から出す
Aねずみ:周囲の客を撹乱させている間に、シナモンが電話機にマイクを仕掛ける
B円い円盤状の道具:聴診器で金庫室のドアの鍵を内からあける
C酸素マスク:密閉状態の金庫室で使用
【削除】(36分40秒)TV中継が駄目になり将軍が自分のホテルの部屋に戻るまで
【見所】(09分30秒)シナモンの脚のアップ 数回あり脚線美を強調?
(21分30秒)テリーがドアに手を挟まれ怪我をしてしまい、作戦の変更を余儀なくされる
(27分20秒)大佐が将軍の部屋に押し入ってきて、シナモンがバスタオル一枚の姿で現れる
(29分00秒)シナモンがお色気でフロントをたぶらかし、その隙にサインカードを盗む
(36分10秒)核弾頭の入っている金庫が見事に開き、ダンと将軍は大きな溜息をつく
(37分50秒)敵が男だったらすぐに料理してみせるわと自信ありげに話すシナモン
(39分50秒)大佐が不審に思い、将軍の部屋に侵入するとダンのマスクを発見する
(48分20秒)ラストシーンでダンのマスクが滑走路に置かれている
【疑問点】@ダンはダイヤルの組み合わせが何千もあると言っているが、実際は10種類の色の組み合わせで3つのダイヤルだから1000通りでは?
A金庫室にある核弾頭が二つのトランクの中にいつの間にか入れられている。1個90キロもある核弾頭をダン一人で入れたのか、あるいは将軍に手伝わせ たのかは不明。
B将軍が金庫室に入って大声で騒ぐが、金庫室に入る前に騒ぐことができたのでは? あるいは注射等で眠らされていたのかは不明。
C将軍に対してダンはブリッグスと本名を名乗っているが、どうして?
【粗筋】ダンは宝石セールスマンとしてウイリーを従え、一日に二度しか開かないタイムロックが装備されたホテルの金庫室に二つのトランクを預ける。トラン クの中にはテリーが隠れており、ライトと酸素マスクを使用して内側から金庫室を開ける細工を施す。12時間後、ダンとウイリーはその二つのトランクを受け 取り、テリーをトランクから出した後、ドミンゲス将軍の部屋に向かう。ここまでスムーズに作戦が進むのだが、テリーの両手が将軍の部屋のドアに挟まって 怪我をしたことにより作戦変更となる。ダンがテリーの代役を務めることになるが、ダンの体格が大きいために、トランクに必要な道具が入りきらず、酸素マス クを使用できないという危機的な状況下で任務を遂行しなければならなくなる。ウイリーはダンと将軍の入ったトランク二つを再度金庫室に預けた後、金庫室 の中で、ダンは猿轡をはめられている将軍を放すと、将軍は核弾頭をアメリカへは使わないとダンに取引を持ちかけるのだが、ダンは核弾頭をもらうか、ここ で爆発するかのどちらかと言って応じない。核弾頭の入っている金庫のダイヤルは色の組み合わせになっており、間違ってセットすると核弾頭が爆発する仕 掛けになっている。ダンは国旗の色の組み合わせになっていることを見抜き、サンタコスカの国旗の色の組み合わせで開けようとすると、焦った将軍は正確 な色を暴露する。ダンはトランクに核弾頭二つを入れて、将軍を核弾頭の入っていた金庫の中に閉じ込めるのである。そして、さらに12時間後、ウイリーとダ ンに変装したローランが核弾頭の入ったトランクを受け取り、テリーはシナモンの夫のローランになりすまして車椅子に乗り、IMF四人はホテルをチェックアウ トするのだ。ダンは花火の打ち上げに乗じ、タイムロックを破壊して金庫室から出てくるが、ホテルマンに不審がられる。一方、将軍の部屋で大佐が縛られ、 金庫室に将軍が監禁されて核弾頭がなくなっているのが確認される。検問突破後カーチェイスが繰り広げられ、銃撃戦が展開される。この時、敵の警備兵 がダンのマシンガンに命中し、重傷もしくは死亡している。IMF一行は途中で救急車に乗り換え、空港までたどりつく。そこにはセスナ機が待機しており、敵 が空港にたどり着いた時には、すでにセスナ機は滑走路から飛び立とうとしていた。
【解説】邦題は「核弾頭を奪え」ということになっているが、原題はパイロット版(Pilot)ということで、特にタイトルを与えられていないようだ。
本編に入ると、中年男が現れて怪しげな荷物用エレベーターに乗り、奥の事務所でレコードを受領するが、視聴者にその男が何者であるかはまだ説明され ない。そして、その男がレコードのジャケットからレコードを取り出し、レコードプレーヤーにかけると、最初は音楽がかかるものの、トラックを変えて再生する と、怪しげな男の声が聞こえ、その男のことをブリッグスという名前であることが初めて明かされる。そして、そのレコードの内容から、声の主は当局側の人物 で、ブリッグスという人物は、当局側から二つの核弾頭を奪えと指令を受け、人選については、彼が自由にできる立場にあるということが知らされる。そして、 指令が終わると、レコードから煙が発生して、視聴者は驚くとともに余程証拠に残ってはまずいものなんだろうと想像する。こうして、「スパイ大作戦」は幕を開 けるのだ。
 メンバーを選ぶシーンがなく、いきなりアパートのシーンになり、残りのメンバーが怪しげな雰囲気の中でポーカーを楽しんでいる。バーニーとローランのイカ サマの競演が面白い。普通のドラマなら、ここでメンバーの紹介があり、彼らがどういう人物か視聴者にわかるように説明するものだが、何の説明もない。視 聴者がわかるのは、彼らの名前だけで、リーダーらしきブリッグスがメンバーに作戦の指示を出して、どういう役割をするのかをおおまかに説明するだけであ る。視聴者は、彼らの名前以外の情報はほとんど与えられず、考える間もなく彼らとともにアドベンチャーの世界に入り込まなければならない。これは見る方 にとっては辛いドラマである。
 次は、いきなりメンバーが別行動を取ってそれぞれ現地に入り、舞台となるホテルにシーンが移る。ブリッグスとウイリーは、宝石商としてホテルにチェック インし、ウイリーのトランクの中には金庫破りの専門家テリーが入っている。シナモンは車椅子のローランを押しながら夫婦という触れ込みで宿泊する。シナ モンの派手さのため、夫のローランの存在感は全くなく、それが後の作戦に生きてくる。そして、シナモンが仕組んだねずみ騒動により、バーニーがねずみ駆 除業者としてホテルに入り、メンバー全員がホテルに揃うことになる。1度ロックすると12時間開けられないタイムロックを装備したホテルの金庫室に、テリー の入ったトランクを預け、テリーは酸素マスクをつけながら金庫室の内部から脱出可能にするため、細工をするのだ。
 12時間後、細工の終了したテリーの入ったトランクを金庫室から取り出し、将軍の部屋に向かうIMFは、守衛二人をいきなり殴り倒して、将軍の部屋に押 し入るが、この時にテリーの手がドアに挟まれて使い物にならなくなってしまう。作戦変更を余儀なく強いられてしまう破目になるのだ。また、核弾頭の入って いる金庫のダイヤルは番号ではなく、色の組み合わせになっている。このことでダンは将軍に吐かせるという作戦を取る。
 ここまで来ると、視聴者もIMFメンバーのキャラクターの説明を受けなくても、彼らの行動から徐々に掴むことができるようになっている。冷静に判断するダ ン・ブリッグス、派手で怪しげな雰囲気があるローラン、自分の美貌に絶対の自信があるナルシストのシナモン、配線や地味な作業をこつこつとするバーニ ー、寡黙だが人並外れた体力を持つウイリー、汗水たらして一生懸命に働くテリーという具合である。さらに、金庫室の中で将軍が核弾頭を"君の国へは使 わない"とダンに言うのだが、"私がいただくか、ここで爆発するかのどちらか"とダンは取引に応じない。ここでのダンはタフで手強く妥協を許さないという性 格に満ちている。また、1000種類ある組み合わせの中で、国旗の色に目をつけたダンの機転には素晴らしいものがある。最初サンタコスカの国旗の色であ る緑・白・赤と将軍に言うが、将軍が緑ではないと言っただけで赤・白・青とアメリカの国旗の色と当ててしまう賢さはさすがである。IMFのリーダーを務めて いるだけのことはある。もし、計画通りにテリーが金庫室に入っていたらここまで見事にはできなかっただろう。果たしてテリーの華奢な体で、核弾頭を金庫 から取り出し、トランクへ2個も入れなければならないという任務は務まらなかったかもしれない。
 第1シーズンのリーダーであるブリッグスのことを部下はチーフと呼んでいる。第1話では、テリーとシナモンがそのような呼び方をしているシーンが見られ る。第2シーズン以降のリーダーとなるジム・フェルプスに対して部下は皆"ジム"と親しんで呼んでいたが、自分に対しては気軽にダンと呼ばせない、ブリッ グスの厳しさが見受けられる。
 フィナーレは任務に成功したIMFチームの喜ぶシーンかと思いきや、IMFチームは飛行機に乗って逃げてしまい、ローランがダンに変装する時に使ったマス クが象徴的に滑走路に置かれているところがクローズアップされて終わっている。初期の「スパイ大作戦」のエンディングでは、敵を欺いた後、IMFチームが 喜ぶ間もなく逃げるシーンが多い。
 将軍の変装用マスクは何ピースにもなっていて、ダンのマスクが1ピースであるのとは対照的である。将軍の変装はマーティン・ランドー本人が演じている。 他人に変装する時にこのようなマスクを使用するという、今後シリーズ全体に用いられる手法を例証しているようにも見える。その他にも、今後このシリーズを 特徴づける、金庫の内側から爆発させるというような大胆不敵な作戦、複雑に入り組んだストーリー、入念に練られた騙しのテクニックについてもその片鱗が 見受けられる。これに対して、007シリーズの得意とする敵との殴り合い、カーチェイスシーンそして、銃撃戦でダンの方から先に銃を発射するシーンも見ら れるが、こういったシーンは「スパイ大作戦」では今後馴染みの薄いものとなっていくのである。
 一般客が出入りするホテルの金庫室に核弾頭を保管するというアイデアは、現代ではとても考えられない設定であるが、当時としては新鮮に映ったのかも しれない。ブルース・ゲラーが唯一脚本を担当した、このエピソードでエミー賞を見事に受賞している。ブルース・ゲラーは当初、ローランでなくテリーをレギュ ラーにしたかったようで、そのためかローラン演じるマーティン・ランドーとはシーズン契約をしなかった。そのために、第1シーズン中、マーティン・ランドーは 特別出演という肩書きで出演している。恐らく、金庫破りの専門家より変装の名人の方が、IMFにとって必要な人材ということで判断したのだろう。テリーを 演じたウォーリー・コックスは優しそうだが少し影が薄い。日本の俳優に例えれば、三谷昇といったところか。まして、任務の途中で怪我をしてしまい、作戦の 変更になってしまったのでなおさら印象が悪い。IMFによる金庫破りのシーンは今後も幾度となく登場するものの、以降ウォーリー・コックスの出番は二度と 来なかった。


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